Operator overloading in JavaScript (Stage 1)

tc39_studyのための準備。

tc39 に Operator overloading in JavaScript という仕様が提案されている。これは現在 Stage1 で、将来的に標準化されるとしてもこの記事に書かれている多くの API はその頃には大きく変更されている可能性がある

その名の通り、ここでは JavaScript における演算子オーバーロードが提案されている。

API

overload される演算子、されない演算子

提案の中では下記の演算子は overload されうるものとして扱われている。

  • 数値計算の演算子
    • 単項: +, -, ++, --;
    • 複項: +, -, *, /, %, **
  • ビット演算子
    • 単項: ~
    • 複項: &, ^, |, <<, >>, >>>
  • 比較演算子: - ==, <, >, <=, >=
  • 整数値でのプロパティアクセス: [], []=

一方、下記の演算子は overload をサポートしないとされている。

  • !, &&, ||
  • ===
  • 整数値以外での., []によるプロパティアクセス
  • 関数呼び出し: ()
  • ,
  • pipeline operator: |>
  • optional chaining ?., ?.[], ?.()
  • nullish coalescing: ??
    • (logical assignment ??= については明記されてないがおそらくここに含まれるはず)

overload の挙動を定義する

例として、RGB の各要素を単純に加算する RGB class の + 演算子を定義する。 (具体的には、#A1B2C3#1A2B3C を加算して #BBDDFF を得られるような演算子)

まず、専用の operator の集合を作る。これはOperators関数を呼び出すことで得られる。

const RGBOps = Operators({
  "+"(a, b) {
    // エラーハンドリングは省略している雑な実装
    return {
      r: a.r + b.r,
      g: a.g + b.g,
      b: a.b + b.b,
    };
  },
});

この operators を使うことのできる classRGBを宣言するには、上記で宣言したRGBOps class を継承する必要がある。

class RGB extends RGBOps {
  r;
  g;
  b;
  constructor(hex) {
    this.r = parseInt(hex.slice(1, 3), 16);
    this.g = parseInt(hex.slice(3, 5), 16);
    this.b = parseInt(hex.slice(5, 7), 16);
  }
}

演算子オーバーロードは class に対して明示的に有効化したときにしか使用できない。 明示的に有効にするには with operators from もしくは littledan/proposal-reserved-decorator-like-syntaxを使って@use: operators で宣言する方法が検討されているようだ。

proposal のコード例では with operators from を使っているため、ここでもそちらを用いる。

new RGB("#A1B2C3") + new RGB("#1A2B3C"); // operatorを使用することを明示的に宣言していないためTypeError の例外が起きる。

with operators from RGB; // オーバーロード演算子を使うことを明示

new RGB("#A1B2C3") + new RGB("#1A2B3C"); // new RGB('#BBDDFF') と同等の値を持つインスタンスが得られる

異なる class との演算

上の例ではRGB class 同士での加算を定義したが、例えばnew RGB('#112233') * 4 のように数値との乗算で#112233各要素の値を 4 倍して#4488CCを得られるような演算子*を定義したくなるかもしれない。この提案ではこのケースもサポートされている。

Operators 関数の第 2 引数には、すでに定義されている他の class との演算を行うときの演算子を定義できる。

const RGBOps = Operators(
  {
    "+"(a, b) {
      // エラーハンドリングは省略している雑な実装
      return {
        r: a.r + b.r,
        g: a.g + b.g,
        b: a.b + b.b,
      };
    },
  },
  {
    right: Number,
    "*"(a, b) {
      return {
        r: a.r * b,
        g: a.g * g,
        b: a.b * b,
      };
    },
  }
);

この例では演算子*の右側のオブジェクトがNumber型だったときの挙動を定義している。既存の他の class A との演算子を定義するときには、 このように演算子の左側にAがいる場合と右側にAがいる場合をそれぞれ明示的に定義する必要がある。

Use case

上記の RGB の例は筆者が適当に考えたユースケースであるが、提案のなかでは別のユースケースがいくつか示されている

  • Number, BigInt に加え複素数などを追加した “Numeric type(数値型)“
  • 行列、ベクトル計算
  • TensorFlow.js などで用いられる DSL
  • CSS の単位(em, px など)の計算
変更履歴

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